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LESSON 0

​「落ちこぼれ」が先生になった話

 レッスン記事を挙げるにあたり、僕の経歴についてご紹介させてください。

 

・生い立ち

​ 僕が生まれたのはバブルが崩壊した1990年のことです。伊達政宗で有名な宮城県仙台市に生まれ、音楽の経験が全くない両親のもとで育ちました。

 歳の離れた2人の姉が吹奏楽部に入っていたのがきっかけで、よく演奏会に連れて行ってもらったことを覚えています。かっこよくメロディーを吹いていたトランペットに憧れて、いつしか演奏会に行く目的が「トランペットの音を聴きたいから」となっていました。

 初めてトランペットの素晴らしさを感じたのは、12才の時です。音は少ししか出せない状態でしたが、初めて曲を吹いた時の感動は今でも忘れられません。技術はなくても、まず音楽を楽しむこと。そんな環境で育ったおかげかもしれません。毎日必死にというよりは、「楽器を吹かずにはいられない」という気持ちで練習していました。

 そんな僕が当時地元で強豪の吹奏楽部がある仙台高校へ進学したのは自然の流れだったのかもしれません。

・楽しい音楽が、苦痛の毎日へ

 高校の吹奏楽部では、挫折の連続でした。大勢の部員達、強豪校から集まってきた同級生達。楽しいだけでやってきた僕は、当然落ちこぼれ部員でした。

 吹奏楽部には珍しい男子部員ということで希望通りトランペットパートとなったものの、皆の足を引っ張り、先輩からはいつも叱られていました。やさしく練習に付き合ってくれた仲間もいました。でも、そのやさしさが痛かったのを覚えています。

・苦痛の毎日は泥沼状態へ

 どうすれば楽器が上達するのか? 辛いだけの練習に意味はあるのか? 頭が悪かった僕は、ひたすら効率の悪い練習を繰り返しました。当然、思ったように上達することもありませんでした。それからの僕は、しだいに楽なほうへ楽なほうへと進んでいきました。自分の得意な練習だけをしたり、好きな雰囲気の曲だけ練習したり...。

・大切な気づき

 そんな私を気づかせてくれたのが、同じパートの先輩の一言でした。一人ずつ楽器を吹いて、どれだけ実力さが違うのかを示してくれました。そして、まもなく後輩を引っ張る立場になる僕に、「そんな程度でいいの?」と真剣に言ってくれました。その時のトランペットパートの張りつめた空気は、今でも忘れられません。

 それから僕は、真面目に練習すること。自分の苦手な分野に向き合うことを決意したのです。

 そして、一からやり直そうと思い、始めたのが、学校が閉まってからの自主練習でした。朝練と昼練、放課後の部活での練習に加え、場所を変え、夜遅くまで練習しました。

 しかし、好き勝手やっていた僕がすぐに上達するわけがありませんでした。後輩達が出来てからも、2-3年生のトランペットパートで唯一、コンクールのメンバーには選ばれず、顧問の先生からも毎日ひたすらに叱られていました。自分は今後楽しく音楽をすることは出来ないのでは、と思い悩みました。そして、何度もトランペットをやめてしまおうと思いました。

・指導者の助け

 そこで僕がやり直せたきっかけを与えてくれたのが、当時吹奏楽部を指導していた顧問でした。保科雅己という先生です。保科先生は、何も分からず後輩達の指導をしていた僕に見かねて、その場で指導を代わって下さいました。その練習方法でぐんぐん吹けるようになっていく後輩達を見て、私は驚きました。しかも、その保科先生はトランペットはおろか、管楽器吹きですらなかったのです。

 「練習には、方法がある」

 この事実を信じ、僕は楽器を吹く前にとことん勉強することにしました。当初実力のなかった僕には、それしかなかったからです。様々な教本や指導書、音楽関連の書類を読みあさりました。勉強して勉強して、小・中学生の初心者向け講習会にも積極的に参加しました。その時期に僕が学んだこと、それが練習の技術です。

 それから僕は、練習の技術を駆使し、トランペットで結果を得ることが出来ました。独学の僕が、有名な先生に習っている部員達の前で練習を仕切ることもでき、音楽家の卵の人達が参加する東京での演奏会へ招待されて、ソロ演奏に行くことも出来ました。高校卒業後は中高吹奏楽部でのトランペット指導やコーチ契約、大学吹奏楽サークルの常任指導指揮、新設一般楽団での指揮者、ちょっとしたソロ演奏のお仕事をさせて頂くこともありました。演奏を通して人を泣かせるという体験もさせて頂きました。

・僕の音楽を変えた練習の技術

 僕自身はプロの演奏家ではありません。自分が特別に上手だとも思っていません。音楽を教える立場にある人たちからすれば、むしろ演奏はとても下手な方だと思います。それでも、トランペットを楽しく吹くことができるようになりました。

 音楽を楽しむ、そんな当たり前のことでさえ、落ちこぼれ部員時代の僕からしてみれば夢にも思わなかったことです。そうなりたいとは願っていたし、努力もしていたけど、叶うとは信じられなかった。当時の僕が、今の僕を見たら、「自分には無理だ」と言うと思います。自分を信じることが出来ず、諦めていました。でも、もっと自分を信じる気持ちを持っていたら、今の僕が思いもしないもっと大きな結果が出ていたかもしれません。

 だから、あなたも諦めないでください。自分の殻に閉じこもって、「自分には無理だ」と決めつけないでください。自分を変える勇気がない、上達しない、楽しく音楽ができない、そんなお悩みがあるなら、一人で悩まないでください。

 楽器の練習に裏技はありませんが、適切な方法は存在します。僕の音楽を変えた楽器練習の力を通して、あなたの音楽を楽しくする、小さなヒントでも見つけていただけたら、それが僕にとっての喜びです。

2019年6月 服部雅明

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